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Road to 4K

​「ワンカラット」4Kレストアへの道

●オールド・メディアの生き残る道はない

 

 映画にとって「見やすさ」というのはとても大切です。これは映画に限らず音楽などの分野でもあることですが、最新のフォーマットで作られた作品のほうが視聴者に受け入れやすく、良いものは良いというのは誰もが分かっているものの、目に留まるには少なくとも現在流通しているフォーマットで提供するほうが有利だということです。

 「ワンカラット」が、もし35mmフィルム、または16mmフィルムで撮影されていたら現在でも生き残る道があったかもしれませんが、私達は、ビデオを選びました。1990年代の映画は、フィルム撮影されたものがメインストリームであり、ビデオで製作するような映画はどちらかというと邪道と思われていました。しかし、自主制作の現場ではその手軽さから使用される機会が増えてきた時代でもありました。​私達の映画製作グループ伽羅でもビデオを選択したわけですが、自分たちで手が届く範囲でできるだけ高画質のフォーマットを探しました。

 この頃のビデオは、テレビの規格が元となっていて、日本ではNTSC​、ヨーロッパではPALという規格でした。NTSCは走査線525本と決まっていて、垂直方向の解像度は最大525本以上が規格上の限界数でした。それでもテレビの有効視野に入るのは480本程度です。

​ 水平方向の解像度は、テレビ放送で350本で、ビデオだと200本程度でした。そんな中、S-VHSが水平解像度400本を達成し、追って登場したED-Betaが500本だったのです。そこでフォーマットはED-Betaに決めました。現在の表記にすると500✕480ということになるのでしょうか。DVDと同等の画質ということになります。現在では、SD画質というのが4:3の画角で620✕480なので、SD画質よりも劣るということになります。ちなみに現在のフルハイビジョンのテレビの解像度が1920✕1080ということからみるとかなり不明瞭が画質になりますが、それでも自分たちが扱える画質ではED-Betaが最良の選択だったのです。

​ 現在のテレビの解像度とは圧倒的に劣る画質で、その上今では4K(3840✕2160)も当たり前のように存在する時代となり、私達の作った作品の画質は、とても現在では通用しないものとなっていました。

●「ワンカラット」復活への道

 

 「ワンカラット」が永遠に過去のものになろうとしていた時、驚くべき魔法が誕生しました。SD画像を4K画像化する技術が現実化したのです。

 以前だったらこういう技術は一般には広まることがなかったかもしれません。しかし現在では、ネットを通じて様々な技術を自由に扱える時代となり、この魔法のような技術を誰でも手に入れることができるようになったのです。

 低解像度のものを高解像度に変更するなんて、無いものを生み出すようなもので、想像を超えた技術であり、その仕組みは全くわかりません。AIということばで片付けられていますが、本当に凄いものです。

 試しに「ワンカラット」の映像の一部を4K化してみました。元の画像が悪いので、当然現在流通しているような画質には程遠いのですが、それでも驚くことに作中に登場する稲穂の一本一本が分かるほど明らかな高画質化に成功したのです。この画層を見た瞬間、私には選択肢が一つしかありませんでした。勿論この映画「ワンカラット」を全編4K化して再発表することです。

●素材集め

 

 2023年10月、AIによるSD画像の4K化を知った私は、「ワンカラット」のレストア作業を行うことに決めました。そこで元になる映像を用意するところから作業を始めることにしました。

 元画像はED-Betaで収録されていて完成作品も同様です。2004年に「ワンカラット」のインターナショナル・バージョンを製作した際に完成作品や撮影素材をDVテープにダビングしておき、その上ED-Betaの完成版と撮影素材もBlu-Rayレコーダーを購入した際にダビングしておきました。やはり思い入れのある作品だったということもあり、できるだけ残しておきたかったのです。今思えばこの時に全ての素材をデジタル・フォーマットに移行させておいたので、今回のレストア作業が可能になりました。

 最初の作業は、Blu-Rayに収録された映像をPCへ移行させるところから始めました。Blu-Rayからの移行は4K対応の外付けドライブを用意することで作業に入れます。問題はDV画像をPCに移行させる方法です。いくつかの方法がある中で、できるだけ費用を抑えてできるやり方が、DVプレーヤーからBlu-RayレコーダーのHDへiLinkを使ってダビングし、それをBlu-Rayディスク化してからPCへ移行させるという方法です。

 問題はDVプレーヤーですが、こちらも既に過去のフォーマットとなってしまっているので、まずは再生機用としてDVカメラを手に入れることにしました。しかし最初に購入したものが動作不良でゴミとなり、再度購入することになりました。当然中古で状態も不明という不安な状況ですが、やるしかありません。​なんとか動作可能な製品を手に入れることができて、DV素材を上記方法でPCへ移行させることができました。

●SD版の再編集

 

 当初は完成版をそのまま4K化することを考えていましたが、元の撮影素材のほうが完成版よりも遥かに画質が良いので、撮影素材を再度完成版と同じように編集し直して、それを4K化することに決めました。

 完成版と同じテイクを撮影素材から探して繋ぎ直すという気が遠くなるような作業が始まりました。基本的に完成版と同じタイミングで繋げていくわけですが、この作業は本当に楽しくて、自分がどれだけ映画製作を愛していたのかを思い出すことになりました。

 

この段階で全作業工程をまとめてみました。


1.映像素材取り込み
・素材をPCへ移動 ⇒ これは悪戦苦闘したあげく何とかできました。
2.SD版修正
・取り込み素材によるSD画質完成版 ⇒ 完成しました。
・撮影時のオリジナル素材を使用して再編集 ⇒ 作業中。
・元素材から残っているノイズの修正 ⇒ 作業中。
・シーンごとのノイズ補正をしてSD画質修正版を完成 ⇒ これから行います。

ここから先の工程は12月以降になる予定です。
3.4K化
・SD画質修正版をシーンごとにHD720で書き出し
・各シーンを4K化
・4K化した各シーンを結合し、4K画質版を完成

4.カラーグレーディング
・シーンごとにカラーグレーディングを実施

5.音声マスタリング
・撮影用オリジナル音声からセリフを抽出
・SD画質完成版の音声からセリフを抽出
・抽出したセリフから使用可能のものを選択
・環境音、効果音の製作
・音楽のリマスタリング
・サウンドトラックのマスタリングしリマスタリング版サウンドトラックの完成
・4K画質版の映像とリマスタリング版サウンドトラックを結合し、4Kリストア版完成

以上が全ての工程です。

2024年5月でシナリオができてから30年になりますので、それまでに完成させる予定です。

●SDを4Kへ

 元素材を使用して何とかSD版を完成させましたが、いくつかの問題があります。画像の一部がノイズなどで欠損しているのです。そこで前後のフレーム画像を複製して欠損部分を埋めたり、画像の一部分を別のテイクの画像に差し替えるなどの特殊な修正を行い、欠損部分を補いました。

 これだけでも映画にとってはとても成果のあることですが、これからが大切です。

​ 2024年12月、画像の4K化ができるサービスはいくつかありましたが、HitPaw Video Enhancerで決定し、1​年間の使用ライセンスを購入しました。いよいよ4K化への道の第一歩をスタートさせたのです。

​ 4Kへのレンダリングにはかなり時間がかかるので、作業中にホームページを再作成することにしました。「ワンカラット」のホームページも昔の仕様なので、現在のPCやモバイル機器で見るようには作られていないため、新しく作り直す必要があったのです。レンダリング中の時間を使ってホームページの作成を行いました。

●予告編

 4K化が無事に終わり、全体を繋げて4Kバージョンの基本的なものが完成したところで、予告編も4K化することにしました。最初は元の予告編をそのまま4K化してみたのですが、こちらも元の撮影素材から作り直すことにしました。やはり画質が段違いなのです。

​ 2023年12月中旬には予告編も仕上がり、新しいホームページにアップしました。

●4K画像修正

 HitPaw Video Enhancerによる4K化は順調に進みましたが、元画像が低画質ということもあり、いくつかの問題も発生しました。

 元の画像が暗いため、明るく補正してから4K化すると画面にノイズが乗ることが確認されました。チリチリとしたノイズは、元画像から明るい部分を引き出して発色させようとするHitPaw Video EnhancerのAIプログラムのなせる技だと思われます。これは後に修正が必要です。他にもキャラクターよりも明るい蛍光灯の光を抑えるなどの修正をいくつか行いましたが、画像の問題はそれだけでは済みませんでした。

 そんな中でも困難だったのが、スキントーン問題です。4K化することにより皮膚の粗が目立つようになってしまったのです。ホクロやニキビなどがはっきりと見えるようになり、それが肌荒れレベルで見られるため、気になってしまいます。撮影時にドーランの使用も検討されましたが、より自然な画作りにしたいという思いからドーランの使用は止めたのです。当時の画質では問題ありませんでしたが、4K化することで気になるほどのレベルで目立つようになり、対策が必要となりました。

 皮膚を綺麗にみせるためのプラグインはいくつかありましたが、CMのようなツルツルの皮膚を見せたいわけではないので、プラグインは使用せず、手作業で一つずつ修正することにしました。時間はかかりましたが、とてもうまくできたと思います。

​ 暗い画像のチリチリ問題はもっと時間がかかりそうだったので、画像補正は一旦これで終了し、音声編集へ移行することにしました。

●音声編集

 4K化の制作当初は、音声は上映用のオリジナル音源をリマスタリングして使用する予定でした。しかし、作業を続ける中で撮影時のセリフの音声が残されているので、音声もすべて入れ替えることを検討しました。​

 最近の映像編集ソフトには撮影時の音声と背景音を分離する機能が備わっていて、Final Cut ProやDaVinci Resolve Studioには標準装備されていますが、自分が使用しているPremiere Proには装備されていませんでした。そこで様々な方法を検討しましたが、どれもうまくいかず、ここでもAIの力をかりることにしました。

 LALAL.AIというソフトウェアが音声分離に長けているということを知り、早速ダウンロードしました。これが驚くほどの機能をもっていて、音楽から楽器別に音を分離させることもでき、自分が求めている音声と背景音の分離もかなりの精度でできる能力をもっていました。​まるで魔法のような仕上がりで、本当にAIによる解析性能は想像を超えて進化しているようです。

●編集環境整備

 「ワンカラット」の編集作業は、M1 Macbook Airで行っていました。30年前から音楽制作でDTMを使用していたので、Macを使い続けていて、その流れで映像制作もMacを使っていたのですが、4K動画の本格的な編集を行うには少し使いづらいところがありました。

 そこで気合を入れて編集環境を整えることにして、M3 ProのMacbook Proと27インチの4Kモニターといわゆる左手デバイスと呼ばれるガジェットを手に入れました。

​ これでとても快適に編集作業できそうです。

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